不安定な人間関係の安定した日常

2019年6月6日

『2019年本屋大賞』を受賞されたこちらの作品。様々な事情が絡まり、父親や母親が何度も変わる女子高校生が主人公のお話です。この設定を聞いただけで、反抗期と人生のやるせなさが詰まった本なのだろうと想像していましたが、その中身は予想をはるかに超えるものでした。
　

血の繋がっていない、いわば他人との共同生活を送るなかで、徐々に当たり前になっていく細かな気遣い。一見ストレスフルに思えるこの生活の中で、彼女は戸惑いを感じつつも「人」との付き合い方をしっかりと育みます。
　

この作品では最初の１ページだけが時系列として浮いており、一体どこにこの『瞬間』が挟まってくるのか、読んでいる間、ずっとそわそわしていました。ですがすべてを読み終わった後、切り取られたこのワンシーンは、ある大事な人の、ある朝の幸せなひと時であることがわかります。それが分かった瞬間、読者である私もその優しさで包まれたようなくすぐったい気持ちになりました。
　

この本は、どの年齢の方でも共感できると思いますが、親からの視点が各所に散りばめられているので、これからお母さん・お父さんになられる方にぜひ読んでほしいと思いました。いまの私にとっての、とっておきの一冊です。
　

『そしてバトンは渡された』瀬尾まいこ著　文藝春秋
　

「プロモ未来ラボ」研究員：かおり